耳なし芳一

 聞く耳を持てれば、私も一介の小ネズミと違わないことを知るでしょう。 
どうぞ ゆっくり お声を出してお読みください。

只今より800年余り前のことになりましょうか。
下関海峡の壇ノ浦で、長いあいだ天下を争っていた源氏と平家の最後の決戦がございました。この壇ノ浦で平家は今日我々が安徳天皇とお呼びしている御幼帝,平家一門の女・子供と共に全く滅びてしまったのでございます。
 その後800年の間壇ノ浦の海と周辺の海岸とは長らく平家の亡霊に祟られておりました。壇ノ浦で取れる平家蟹という蟹には、その甲羅に人間の顔とおぼしき紋様がついており平家の武士の亡霊だとも言われております。兎も角あの辺いったいの海岸には、今日でも尚、不可解な出来事が多々見聞されるのでございます。
 
 猟師たちが「鬼火」といっている青白い光ものが闇夜に幾千とも知れず浜辺に現れたり、海の上をふわふわと飛んだりいたします。また、風が荒く吹きすさぶような日には決まって、沖のほうから、ちょうど戦の鬨の声のようなすさまじい叫び声が起こったりするのでございます。
ところで、昔はそうした平家の亡霊が今日よりもはるかに盛んに暴れまわりまして、夜、沖を通りかかる船のそばに表れその船を沈めにかかったり、海で泳ぐものなどがありますと待ち伏せていて、いきなり水底に引ずり込んだりいたしました。
 そうした平家の亡霊たちを供養するため赤間が関に阿弥陀寺が建立されたのでございます。この寺の浜辺に近いところには、ひと囲いの墓所が設けられそこに、入水せられた天皇のお名前や重臣たちの名を刻んだ幾つかの石碑が建てられ、毎年忌日には菩提を弔う法事が営まれておりました。
 この阿弥陀寺に石碑が建てられてよりこのかた、さすがに平家の亡霊も以前に比べるとよほど人を悩ますことが少なくなったとは言うものの、それでもやはりどうかしますと時々まだ怪しい出来事が起こっておりました。つまりは多くの亡霊たちがいまだ成仏しきっていない証なのでございましょう。

 今から数百年前のことでございます。この赤間が関に、芳一という一人の盲人が住んでおりました。この盲人は幼いころより習い覚えた琵琶の名手で、すでに少年のころより師匠をはるかに凌駕するほどの腕前でございました。
芳一は本職の琵琶法師として主に源平の物語の演者として有名でしたが、中でも壇ノ浦の合戦の段を語らせると「鬼神もついに涙をとどめることができない」とまでいわれておりました。
まだ無名の当時、芳一はたいそう貧乏でございましたが、幸い何かと後ろ盾になってくれる親しい方が一人ございました。阿弥陀寺の和尚がその人で、和尚はたいそう詩歌や音曲を好み、ときおり芳一を寺に招いては琵琶を語らせていたのでございます。和尚は若い芳一のすばらしい腕前にたいそう心引かれました。その後、「どうじゃな、よかったら寺へ来て住むことにしては・・・」と誘われましたので、芳一はその恩義に感じ入り和尚の申し出を喜んで受けました。
 そこで芳一は縁側から阿弥陀寺の裏手の庭が一目に見える部屋をあてがわれ、食事と宿泊の返礼に、他に約束事のない晩には琵琶を語って和尚の機嫌をとることに相成りました。
 ある夏のたいそう蒸し暑い晩のこと、寺の檀家に不幸があり和尚は通夜に呼ばれ納所の小坊主も連れだって出かけ芳一一人が寺の留守居をしておりました。
芳一はすこし涼もうと寝間の前の縁先ににじり出て夜風にあたりながら和尚の帰りを待っておりました。が、一人つくねんとしているのも淋しいので気晴らしに琵琶をさらい始めました。夜も更け、夜半を過ぎても和尚は戻りません。とはいえ寝間に入って手足を伸ばすには昼間のほてりが冷めやらず、とても蒸し暑くて寛ぐこともできず、止む無くそのまま縁先に出ておりました。
 だいぶ時が経ったころ裏門のほうから日ごろ聞き覚えのない足音が裏庭を抜け縁先のほうへと近づいてきたかと思うと、その足音はすぐ前でぴたりと止まり
「芳一」
いやにえらそうな、ぶしつけな呼び方はちょうど侍が下郎を呼びつけるような調子です。芳一はぎょっとして暫時返事もできずにおりますと再び厳しく命ずるような調子で 
「芳一」
「はい。私は目の見えぬものでござります。お呼びなされますはどなたやら一向に判りかねまするが・・・。」
客はやや言葉を和らげて
「何も恐れることはない。拙者はこの寺の近くに宿を取っているものだが、おぬしのもとへちと用があって参ったのじゃ。わがご主君は、ある身分の高いお方じゃが、このたび位の高い御家来衆を率いられ、当赤間が関に御逗留なされておられる。
本日壇ノ浦の合戦場をご覧になると仰せられ、わざわざのご見物。ご主君は以前よりおぬしが合戦ものの語りに長けた腕前と聞きとめ、今宵は是非にもお聞きになりたいとの御所望である。そこでおぬしこれから早速その琵琶を持って拙者と共にお館へ参るがよかろう。」
 当時は仮にも武士の命令といえば軽々しく背く訳にはいかなかった時代でございます。芳一はとるものもとりあえず、早速わらじを履き琵琶を抱えて見も知らぬその侍と連れ立って出かけたのでございます。侍は芳一を巧みに手引きいたしましたが、もそっと急げぬかと度々促すのでございました。その手はまるで鉄のよう、大股にのっしのっしと歩むたびカツカツと物の打ちなる音がするのは鎧兜に身をまとっている証拠。定めし宿直の衛士か何かでありましょう。
 芳一は初めに感じていた恐ろしい気持が次第に薄れ、「これはひょっとして何か大変な幸せを迎えつつあるのでは・・・」という期待が胸の中に湧き上がってまいりました。というのは先程この侍が「ある身分の高いお方」と念押ししたことばを思い出し、「もしや琵琶を聞きたいと御所望なさるお方は一品の大大名様に違いあるまいか」と考えたのでございます。
 しばらく行きますと、侍が不意に足を止めました。芳一があたりに気を配ってみるとどうやら二人はどこかの大きな門の前に来たようです。
「果てな、町のこの方角にこのような大きな門があるのは阿弥陀寺の山門よりほかに覚えがないのだが・・・」と訝しく思っておりますとつれの侍が
大音声で
「開門!!」
待つ程もなく閂を抜く音がし、やがて二人は門の中に入りました。だいぶ広い庭先を抜け、またなにやら入り口とおぼしきところまで来て控えると
「やあやあ、うちのもの、たれかおられぬか。芳一めを召し連れてまいりましたぞ」
すると、奥からいそいそと出てくる足音、スルスルと襖のあく音、カラカラと雨戸を繰りあける音がしたかと思うと女たちの話し合う声がわやわやと聞こえてまいりました。
 交し合う言葉から察して芳一は「これは、だいぶ身分の高い方のお屋敷のお女中衆に違いあるまい。それにしても一体どんなところに案内されたものやら…」芳一にはとんと見当がつきません。考える暇もなく芳一は、あの侍に代わった女中に手をとられ五六段の石段をのぼり詰めた所で、わらじを脱げといわれました。
 それからまた別の女に手を引かれ、よく磨きこんだ板敷きのきりもないような長い廊下を渡り、憶えきれないほど沢山の柱の角を幾度か曲がったかと思うと、今度は驚くほど広い畳敷きの床を通って、やがて大広間の真ん中へと通されました。
あたかも森のこの葉が風にそよいでいるような衣擦れの音から察するに
「ははあ、この大広間には偉い方々が大勢お集まりになっているのだな」
低い小声で大勢の人たちが囁いているその言葉遣いは宮中で交わされる言葉のようでありました。
「らくになさい」
といわれて芳一がはっと気がついてみると、柔らかな円座が一枚自分の前に敷かれてありました。その円座に座って楽器の調子を合わせておりますと
「そなたにただいまからその琵琶にあわせ平家を語り聴かせよとの御主君のお望みでござりまするぞ」
ところで平家を全曲語りきるにはそれこそ幾晩もの長い時間がかかります。
「平家は長い曲でございます。とても全曲は語り尽くせませぬ。ご主君様はどの段を語れよとのお望みでござりましょうか」
「なれば壇ノ浦の合戦の段をお語りなされ。あの段は平家のうちにても一段と哀れの深いところであるからの。」
 
 やがて芳一は声を張り上げ激しい船戦の情景を語りだしました。殺気立った軍兵の雄叫び、巧みに操る櫓の軋み、波頭を蹴立てて突き進む軍船のヘリにかかる波しぶき、ヒュウと飛び交う矢のうなり、兜をうがつ刃の響き、打たれてザンブと波間に落ちる音。
たった一丁の琵琶でそれらの物音をものの見事に弾き分けるのでございました。
語っているうちに芳一の左右からは
「これはなんという見事な名手じゃ。」
「都でもこれ程に弾くのは聴いたことがない。」
「いな、いな、天が下に芳一ほどの語り手はまたとあるまいて」
その声が耳に入ると芳一は、さらに一層よく弾じよく語りました。人々は感心して聴き入りあたりは水を打ったようにしんと静まり返っています。
 ところが、そうこうするうちに、曲は次第に進んで、やがてあの平家方のふしあわせな運命を語るところへさし掛かりました。平家一門の女・子供たちの哀れな最後、御幼帝を抱き奉った二位の局すなわち平清盛の妻の入水のくだりにさしかかった時、聞き入るものは皆、ながいながいおののくような苦しげな声を出し、果ては激しいすすり泣きの声を上げて、深い悲しみに泣き崩れたのでございます。
 その声があまりに高く激しいので芳一は今更のように自分の引き起こした悲しみの激しさに驚きました。すすり泣きの声はだいぶしばらくの間続いておりましたがやがていつとはなしに収まり、あたりは再び元の静けさにかえりました。

「なるほどそなたは世に比べるもののない琵琶の名手。及ぶもののない語り手との噂は以前より聞き及んでおりましたが、今宵ほどの腕前とは思いませなんだ。ご主君も大変なお喜び、礼を下さるということをよく伝えておけとのお言葉でござりまする。そして今宵から六日の間毎夜ここへ来てそなたの琵琶を聞かせよとのご命令。ご主君はそののち都への旅に上られるとのおおせですから明晩も必ず今宵と同じ刻限にこの館へ来てくれるよう。先程案内したあの者がまたお迎えに参りましょうぞ。
それについてはここにひとつそなたに申し付けておくことがある。ほかでもない、ご主君がこの赤間が関におられる間、そなたがこの館へ参るについては他言は無用。なんと申してもご主君の今度のご逗留はお忍びのこと故。では今宵はこれで遠慮なく寺へお帰りなされ。」
芳一は厚く礼を言い、女中に手を引かれ玄関口まで導かれ、そこには案内をしてきたあの侍が控えておりました。侍は寺の裏手の縁先まで芳一を連れてくると別れを告げました。

 芳一が戻ったのはかれこれ空の白みかけた頃でございましたが寺を一晩空けたことは誰にも気づかれませんでした。
和尚はその晩だいぶ遅くに戻りましたので、芳一はとうに床についているものとばかり思い込んでいたのでございます。
 あくる日、芳一は昨夜の不思議な出来事について、ただの一言も口外しませんでした。さて、その晩も真夜中になると再びあの侍が迎えにやってきて、芳一は貴人たちが集まっている席へ呼ばれていきました。晴れのその席で平家を語り、前夜の演奏以上に成功いたしました。
 ところがこの二度目の晩、芳一が寺を空けていることが人に知れてしまったのです。
朝になり芳一は寺へ戻るや否や和尚に呼びつけられました。
「芳一。私らはな、そなたの身を大変配しておったのだぞ。目も見えぬに、ただ一人それも夜更けに出歩くなどとは、危ないことこの上もない。なぜ一言断ってからいかぬのじゃ。さすれば寺男を共につけてやったものを。しかしそなた、いままでどこに行っておったのじゃ?」
「和尚様、どうかご勘弁のほどを願いまする。何、ちと、自分の用がござりましてな、それがその、つい、昼のうちに片付けられなかったもので・・・。」
和尚は芳一の言い逃れに、心配するというよりも逆に驚きました。
これはどうやら、ただ事ではない。何か訳がありそうだ。ひょっとすると何か魔性のものに取り付かれ,たぶらかされているのではあるまいか。
そこでその時はそれ以上深く問いただしもせず、ひそかに寺男どもに事の次第を告げ、芳一のおこないから目を離さぬよう、再び寺を抜け出すようならその時は後をつけていけと硬く言いつけておいたのでございます。

 さて、その晩のことでございます。芳一が寺を抜け出していくのが見受けられました。それっとばかりに寺男たちはすぐに提灯を点けてあとを追いましたが、あいにく外はひどく暗い雨降りの晩でした。
寺男たちがようやく表通りへ出た頃にはよほど足早に急いでいったものか芳一の姿はどこにも見えなくなっておりました。
 しかし目が見えないということを思い合わせてみるとこれはいかにも不思議なこと。だいいち足元の悪いぬかるんだ夜道のことでございます。ともかく寺男たちは普段芳一の行きつけている家を片端から一軒一軒尋ねて回りましたが誰ひとり芳一の行方を知っているものがありませんでした。
 
 寺男たちは散々尋ねまわった挙句、浜伝いに寺の方へと引きかえしてきて驚きました。阿弥陀寺の墓所の中で盛んに琵琶を弾いている音がいたします。     
 墓所の方角はただ一面の暗闇。鬼火が二つ三つちらちら燃えているのはいつものこと。すぐさま寺男たちが駆けつけ提灯の明かりをかざしますと降りしきる雨の中で芳一一人が安徳天皇の御陵の前に端座し、錚々と琵琶をかき鳴らし、しきりと声を張り上げ壇ノ浦の合戦の段を語っていたのでございます。その芳一の後ろにも周りにもまた墓碑の上にもおびただしい数の鬼火がまるで蝋燭を灯したように揺らいでおります。寺男たちは口々に
「芳一さんよ、芳一さんよ。おめえ様、化かされてござるだ。・・・・芳一さんよ!!」
けれども芳一はますます懸命に、いよいよ力をこめて錚々と琵琶をかき鳴らすばかりです。
寺男たちは芳一の体にしがみつき耳元に大声で怒鳴りたてました。
「芳一さん。芳一さんよ。・・・さあ俺たちと一緒にすぐにもどらっしゃれ。」
「失礼なことをするな。高貴なお方の前でのそのような邪魔だて。ひどい目に会わねばならぬぞ。」
 それはいかにも不気味でしたが、これには寺男たちもにがわらい。もうこれはどう考えても芳一が何か怪しい物に取り付かれているに相違ありません。無理矢理芳一を引っ立て追い立て、急いで寺へ連れ戻しました。寺へ戻ると和尚の指図で芳一は、濡れた衣服を着替え、飲むものと食べ物を与えられました。やがて和尚は芳一にこれまでの行いについて充分に説明することを言付けました。芳一はややしばらくためらっておりましたが、ついに自分のおこないが、実際のところ親切な和尚を驚かし、かつひどく怒らせたことに気づき、隠し立てをやめ、あの侍が自分のところへ尋ねてきてから先程までの事を全て詳しく打ち明けました。

「芳一。そなたはかわいそうなやつじゃ。そなたはのぉ、今大変危うい目におうているのじゃぞ。 こんなことにならぬうちに早くわしに言うてくれなんだのはなんとも不運なことであった。そなたは琵琶が得意なばかりにこのような不思議な危うい目にあうのじゃ。しかし、もはやこうなったからは、そなたももうよい加減に悟らねばなりませんぞ。
そなたはな、人の家に参っておったのではない。実は、毎夜この寺の墓所のうちにある平家の墓の前におったのじゃ。今宵寺男どもが雨の降る中でそなたの座っているのを見つけたところはな安徳天皇の御陵の前であったぞ。亡者が尋ねて参ったことはともかくとしてそなたが思い描いておったことはみな幻じゃ。ひとたび亡者の申すことに従うたばかりにその亡者の念力に縛り付けられておったのじゃ。この上二度と再び亡者の申すことを聞けばそなたの身はついには八つ裂きにされてしまうぞよ。いや、いずれ遅かれ早かれその身は取り殺されるに決まっておる。
…ところでの、芳一、わしは今宵もまた一軒通夜があってどうしても行かねばならぬ。そなたと一緒に寺におるわけにはいかぬでな。その代わりに、必ずわしの出かける前までにそなたの体に護符の経文を書き付けて置いてやるとしよう。」
  
 日没前、和尚と納所は芳一を丸裸にすると筆を取って芳一の胸、腹、背中、肩、うなじ、肘、膝、手、足、顔、頭、…体中残るところなく手のひらは勿論足の裏までも一面に般若心経を書き付けました。
さて、書き終わると和尚は
「今夜、わしが出かけたらそなたはすぐに裏の縁先に座って待っておるがよい。するといつもの迎えがくる。じゃが、今度ばかりはなにが起ころうとそなたは返事をしてはならぬ。
またその体を動かすことも罷りならん。無言でじっと静かに座っておるのじゃ。もし少しでもからだを動かしたり声を立てたりするようなことがあれば、その身は必ず八つ裂きに会うぞよ。
また助けを呼ぼうなどとは思わぬことじゃ。助けを呼んだところでどうせ助かるわけはない。
だが、恐れるには及ばぬ。わしが今いうた通りに
さえ間違いなくしておれば事はそれで全て終わる。」
 日が暮れてから和尚と納所は出かけ芳一は言われたとおり、そばに琵琶を置いて縁先に座禅の姿勢をとってじっと座りました。
ひたすら精神をひとつにし、声ひとつ立てず、また呼吸をする音も聞こえぬ程にしておりました。
こうして芳一が幾時間か待ち続けておりますとやがて往来のほうから聞き覚えのある侍の足音が裏木戸を入って庭を通り抜け、縁の近くまで来るとすぐ前で止まりました。
「芳一」
といつもの声が呼びましたが盲人は息を殺してじっと座ったまま身じろぎひとついたしません。
「芳一」
と二度目の声がぞっとするように呼びつけます。やがて、三度目の声。今度は荒々しく 
「芳一!!」
芳一は石のように静かです。
「返事がないな。これはけしからぬ。あいつめ、どこへいったか見てやろうぞ。」
 たちまち縁に上る足音がのしりのしりと近づいて芳一のすぐそばまで来てぴたりと止まりました。芳一は胸の動機で体中が今にも張り裂けそうでした。あたりはしんとして物音ひとつしません。耐え難い沈黙の中でしわがれた声が芳一のすぐ耳元で「ほほう、ここに琵琶があるぞ。だが琵琶法師が見えぬ。耳が二つ中空に浮いているばかりじゃ。
成程これでは無理もない、返事をしようにも口がないわ。法師の体は耳が残っておるだけじゃ。ならばここにある耳を大殿にもって帰ってお見せしよう。ご命令を確かに勤めたよい証拠じゃわい。」
 そのせつな、芳一は、鉄の指に左右の耳をぎゅっとつかまれたと思うとたちまちびりびりっと引き裂かれるのを感じました。その痛さは非常なもので一瞬めまいがしましたが、それでも芳一は声をたてませんでした。

 重い足取りは庭に降りてそれから道のほうへ出て行き、やがて、聞こえなくなりました。
芳一は首の両脇へ暖かいものが滴り落ちるのを覚えましたがそれでも微動だにせず、手もかざしませんでした。
夜明け前、和尚は帰ってまいりました。帰り着くや否や裏の縁へと回ってみましたが、ふと何かを踏みつけ、足を滑らし「あっ」と声をあげました。
慌てて提灯の明かりで足元を確かめますと、それは血だまりでした。
目を転じますと縁先に傷口から滴り落ちる生々しい血に染まりながら、身じろぎひとつせず座禅の姿勢のままの芳一。
「や、芳一。これまた、な、なんとしたことじゃ。そなた怪我をしたのか。」
 芳一は和尚の声に安堵し、いきなりわっと泣きながら昨夜の出来事を話しました。
「おお、やれやれ。かわいそうに、かわいそうに。それもこれもみんなわしの手落ちじゃ。本当にわしが悪かった。そなたの体には総て抜かりなく経文を書き付けておいたはずが耳にだけ書きそびれていたとは無念。まさか納所めに手抜かりはあるまいと任せきりにしておいたが、あいつが言いつけどおりに書いたかどうかを確かめなかったのはわしの迂闊。わしの罪じゃ。許してくれ。
しかしいまさら悔やんでみたところでどうにもならぬ。この上は一刻も早くその傷を治すことじゃ。芳一、じゃがな。そなた喜べ、元気を出せよ。この後はもう二度と再びあのような亡者に苦しめられることは、決してないぞ。芳一。」 

 芳一の傷は、まもなくよい医者の手にかかって治りました。不思議なあやうい目にあったという噂はあちこちに広まり芳一の名はたちまちに有名になりました。多くの貴人たちが芳一の琵琶を聞きにわざわざ赤間が関まで足を運んでくるようになり、沢山の金銀を送られて芳一はそのためにたちまち金持ちになりました。
以来芳一は「耳なしの芳一」とばかりに呼ばれるようになって一生のあいだその名で通りました。
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# by kimizudo | 2008-02-15 12:23 |  

むしろ順境こそ恐るべし。


         今年も残り少なくなりました。

      過ぎ去った月日は矢の如くかなたに。
           形を残す間もなく。
      もっともっとゆっくり歩きたいとおもう。
       ゆっくり「あなた」を待ちたいと思う。
      待つことが出来なくなってしまった現代。
   時間を「あなた」のために使うことの大切さも忘れてしまった。
       己の心に素直に生きてなどいられない自己合理化。
           幸せってなんだろう。
     逆境の中で必死に頑張ってきた時代も遠く。
          しかし、やはり、むしろ、
           順境こそ恐るべし。

      自分も、国家も、時代も、浮かれる今ではない

         祇園精舎の鐘の声
         諸行無常の響きあり
         沙羅双樹の花の色
       盛者必衰の理をあらわす
        おごれる者は久しからず
        ただ春の夜の夢のごとし
       たけき者もついには滅びぬ
         偏に風の前の塵に同じ
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# by kimizudo | 2007-12-26 17:54 | 田舎暮らし  

マハトマガンジー

七つの社会的罪』Seven Social Sins


1.理念なき政治 Politics without Principles
2.労働なき富 Wealth without Work
3.良心なき快楽 Pleasure without Conscience
4.人格なき学識 Knowledge without Character
5.道徳なき商業 Commerce without Morality
6.人間性なき科学 Science without Humanity
7.献身なき信仰 Worship without Sacrifice


良い事はカタツムリの速度で動くそうです。
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# by kimizudo | 2007-12-25 09:10 | 田舎暮らし  

聖いこころ

          今の世界は
      混乱していると思います
       皆、とても忙しいそうで、
     開発や、もっとゆたかになることに
       とらわれているようです。
     そこにはひどい苦しみがあります
       家庭や家族との生活には
   ほんのわずかばかりの愛しかないからです
        子ども達のための時間も
  お互いのための時間もないありさまです
    お互いが喜びを分かち合う時間などは
          全くないのです
       こうして、世界平和の崩壊は
         家庭から始るのです


 マザーテレサの言葉より
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# by kimizudo | 2007-12-20 06:42  

今年を表す漢字は「偽」だそうです。「偽装社会」については前に書いたがなかなか面白い現象だ、などと不謹慎なことをいってもおられまい。がしかしそもそも偽装(擬態)は生物社会のルールの中で認められてる知恵であろう。少なくても偽装設計、偽装飾品、偽装○○が時として問題になるのは氷山の一角でしかない。おそらく偽装は生命生存の一側面なのかもしれないと思う。己のライフスタイル、脳みその半分は意識するしないは関係なく偽装である。言い過ぎならば常にそのような恐れがあることを知らねばなるまい。少なくとも偽装した設計士、社長、担当役員、あるいは組織がたまたま倫理逸脱した次元の問題ではあるまい。偽装社会を維持するためには偽装を見破られた者は排除されるのもまた当然ではある。悪代官の「防衛次官」の悪行三昧をつるし上げるのもまた大衆のウップン晴らしには好材料だ。しかしマスコミ政財界及び視聴者が演じ、且つ観劇している事事態も偽装の最たるものだ。
 話はそれるが、北アメリカに南アメリカの毒蛇そっくりの無毒のヘビがいるそうだ。たまたま毒アリ、なしの偶然でなくそのようになった原因が渡り鳥にあるという話。ヘビは獲物を獲り易くまた、外敵(鳥等)から逃れるため模様を外装してる。南アメリカに棲むヘビは毒を供えて鳥に警告をする。北アメリカのヘビは南アメリカのヘビに似せて自らを守る。この場合結果として北アメリカのヘビは南アメリカのヘビの情報を鳥を媒体として北アメリカに伝えて進化させた。
北アメリカの無毒のヘビは毒蛇を好まない渡り鳥の習性を利用した擬態といえば言えるとしても物真似の意識はあるまい。南アメリカなど知らないのだから。このような人が己のなかにいる。先ずは自分の足元を見ることしかない。
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# by kimizudo | 2007-12-13 09:53 | 時事雑感  

昔話を聞く

今日は、仕事が山ほど残ってるからこそ、午後は隣町に「昔話」「童話」を聞きに行った。
子ども用の物語を子どもに聞かせるように語る。それを8人の大人が聞く。80を超えるお母さんも一つ語ってくれた。電気回路を通さないで。声帯から空気を通して耳に入る。語る言葉は文字ではなく感性を振動で伝える。文字を必要としなかった民族は平和である。文字は富の蓄積と支配の道具として発明され発達した面が強い。文字の究極はネット文化だ。便利を得れば同等のものを失う。一万年前の農耕で失ったものは何か。200年前の産業革命で失ったものは何か。現代の情報化時代に失おうとしているものは何か。生命の本質たるものが削がれ続けているのは間違いない。昔話や童話、もっと言えば神話には人の生物としての生命の本質が語られている。いつ頃からか声を出さない黙読が普通になったのは。
 現代では生きてるもの同士が直接触れ合える機会を持ち感動を共有しあえる場は生活のなかから遠ざかりつつあり、それを意識してつくる作業も必要となっているような気がした。
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# by kimizudo | 2007-09-03 21:15 | 田舎暮らし  

「今生きているという経験」を求めて

人々はよく、我々は生きる事の意味を探っていると言いますが、人間がほんとうに探求しているのは、たぶん生命の意味ではありません。人間がほんとうに求めているのは<今生きているという経験>だと思います。純粋な物理的な次元における生活体験が、自己の最も内面的な存在ないし実態に共鳴をもたらす事によって、生きている無常の喜びを実感する。それを求めているのです。
 私たちは外にある目的を達成するためにあれこれやることに慣れすぎている。だから内面的な価値を忘れているのです。<今生きている>という実感と結びついた無上の喜びを忘れている.  
by Joseph Campbell   THE POWER MYTH
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# by kimizudo | 2007-08-25 20:24 |  

まず地理を見よ。

地を離れて人はなく、人を離れて事なし、ゆえに人事を論ぜんと欲せばまず地理を見よ。
吉田松陰の言葉だそうである。
根ざすべき土地を離れて人はなく、人を離れてあらゆる物事や出来事はない。まずは歩いて、見て、聞くということ。大きな人事を語るためには小さな地理の見聞こそが不可欠であるということと民俗学の赤坂憲雄もいう。
実践するもの自らの足で歩き、曇りなき目で見、素直に声を聞くようにしたいものである。
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# by kimizudo | 2007-06-24 21:26 | 田舎暮らし  

最も身近な自然とは

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自分自身であります。
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# by kimizudo | 2007-06-07 18:27 | 田舎暮らし  

君の行く道は果てしなく遠い、なのに何故君は行くのかそんなにしてまで、という歌があった。

恐らくあなたは自分自身の支配の及ばない世界に入ったか入ろうとしているのではないか。修養の道を究めれば行かざるを得ない道か。
支配の圏外に出るときには「そこには異属神がいる、我々の祀る霊と違う霊がいる」だから祓いながら進まなければならない。それが道だ。
道とは、首を槍に引っさげて進むと書く。道を進むということはそういうことだ。

しかしあまりにも周囲が濁ってる。負け戦とわかっていても戦い果てるのが道なら仕方がない。
石田三成に加勢した大谷吉継にならうわけではないが。
仲間の仮面を来てまとわり付く異属神を祓ってやる。
動くでない。
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# by kimizudo | 2007-04-17 08:02 | 時事雑感